人の温かさに触れられる民宿のなかだ オーナー

高浜 義雄さんYoshio Takahama

錦町出身。六調子酒造へ入社。1968年、同じ職場に勤めていた静香さんと結婚。民宿を営む知人の保証人となっていた関係で、2002年、屋号を変えて「民宿のなかだ」としてリニューアルオープン。しばらくは会社勤めをしながら経営し、退職後は、静香さんとともに民宿経営に専念している。妻、娘と3人暮らし。

錦町の食材でおもてなし
ホッとする家庭料理を提供

錦町役場から約500m、町の中心部に位置する2階建ての「民宿のなかだ」。住所の字名が「のなかだ」だったことから、名付けられた。
高浜さん夫婦と従業員1人で営むアットホームな民宿。部屋のタイプは全て和室で、4畳半、6畳、8畳の3種類。部屋によっては、窓から隣接する学校の桜や銀杏の木々を眺めることができ、のんびりとした錦町の風景が心を癒やしてくれるよう。
宿のご飯は、錦町産の野菜を中心に使用し、朝はハムエッグや焼き魚、みそ汁、夜は刺身や肉料理、煮魚といった妻の静香さんの手料理を提供している。
「宿泊客はビジネスで連泊する人がほとんど。毎日食べてもらうものなので、仕事場から宿に戻ってきて、ホッとするような家庭料理を心掛けている」

前職の経験を生かし
初めての民宿経営

酒造会社に勤めていた高浜さん。知人から急遽、宿泊業を引き継ぐことになり、周囲でも心配する声が聞かれたというが「当時、錦町に宿泊施設はほとんどなかったため、自分が運営することで、何かしら生まれ育った町に貢献できるのではと思い、引き継ぐことを決意した」という。酒造会社では、経理関係など業務全般に携わっていたため、その経験を生かす機会となった。「何より前職も人と人との付き合いが基本の仕事だったから、そこを大事にできれば、なんとかお客さまにも認めてもらえるのではと、突き進んできた。知人が民宿で宴会を開いてくれるなど、周囲の支えもあり、約20年続けてこられた」と笑顔を見せる。

宿泊客が教えてくれた
人との関係性づくりの大切さ

錦町は企業誘致が盛ん。新型コロナウイルス感染症が拡大する以前は、インドやインドネシア、タイ、ブラジル、マレーシアなど、海外からの研修生の受け入れ拠点として、企業が民宿を利用するケースが多くあった。
「宿泊期間は3カ月から10カ月ほど。言葉の壁はあれど、片言の英語や身振り手振りで通じ合うことができた。長い時間を共有し、故郷へ見送る時は、別れが辛かったほど、まるで家族のような存在だった」と振り返る。
文化や生活様式の異なる国での滞在を気遣い、企業が休みになる土日は、観光名所である熊本城や阿蘇を案内し、宿泊者からは「故郷とはまた違った風景に感激した」と好評だったそう。
「宿泊者が自国へ帰る時には、『必ず僕らの国に来てください、私たちが責任を持って案内しますから』と言ってくれて、感無量だった。訪れる人をもてなし、喜んでもらう。国籍問わず、こうした人との関係性づくりが、この仕事のやりがいなのだと、再認識させてもらう機会になった」

季節ごとに楽しめる
錦町の自然に触れてほしい

錦町で生まれ育った高浜さん。「錦町では、春は球磨川沿いのツクシイバラ、秋は新宮禪(ぜん)寺の樹齢500年を超える大銀杏や数百本の紅葉など、四季折々の自然を楽しめるのが魅力。梨や桃が旬を迎える時季には、生産者のところで直接購入することもできるので、周囲を散策したい方はぜひ気軽に声をかけてほしい」とにっこり。高浜さんの情報を頼りに、宿を拠点として町を観光するのも一興だ。
そんな高浜さんも80歳を目前とし、次なる展開を考えているという。「鮎やイワシの甘露煮、お煮しめといった昔ながらの料理を総菜として販売できるよう環境を整えたい。宿泊がない時でも売れるものがあれば、雇用を守ることができるし、さらに雇用を増やしていければ、社会貢献にもつながっていくはず」と力を込める。娘さんが働く錦町の農家で製造しているからいも餅やいきなり団子などの販売も検討している。
会社員から民宿経営へ、さらに総菜販売と新たな一歩を踏み出す高浜さん。挑戦し続ける姿勢が、町の元気につながっていきそうだ。