厳選素材の和菓子を通して
街の魅力を発信
厳選素材のこだわり和菓子
甘酒饅頭市房堂店主

小嶋 和喜さんKazuki Kojima

多良木町出身。高校卒業後、広島県の製鉄所に入社。35歳の時に退職し、帰郷。錦町で「厳選素材のこだわり和菓子 甘酒饅頭の市房堂」を1987年に開店。妻と従業員とともに、和菓子の製造・販売を始める。現在は息子夫婦も加わり、総勢7人で運営している。妻と娘家族との4人暮らし。

「市房堂」の味を求めて
県内外の人々が足を運ぶ

人吉市内方面から国道219号を東へ進むと見えてくる、大きく書かれた「市房堂の甘酒饅頭」の文字。
蒸し器の蒸気がもくもくと昇り、店いっぱいに甘酒饅頭の甘い香りが立ち込める。

ここは、小嶋和喜さんが経営する「厳選素材のこだわり和菓子 甘酒饅頭の市房堂」。
店頭に並ぶまんじゅうや大福などを買い求め、県内外の車が出入りする活気のある和菓子屋だ。

「県内はもとより、帰省する度に必ず寄ってくれる県外のお客さまもいらっしゃる。市房堂の味を求めてわざわざ足を運んでくれることが何よりもうれしい」

企業勤めから一念発起
初めての和菓子屋運営

高校卒業後は広島県の製鉄所で働いていたという和喜さん。
「このまま働いていれば安定はするが、大きな企業の歯車として働くことに違和感を持つようになってきた」

35歳で帰郷を決意し、長年勤めた会社を退職。どこかに勤めるのであれば、これまでと同じこと。「ならば、小さくても自分自身で新しい一歩を踏み出したい」と、まんじゅう屋を営む親戚からノウハウを学び、これまで無縁だった和菓子屋を錦町に開店することになった。

寝る暇もない忙しさ
錦町の常連客に支えられ

素材にこだわり、一つ一つ手作りしていたことに加え、バブル期だったという時代背景もあり、開店まもなくして売り上げは好調。しばらくは、朝5時から夜10時まで妻や従業員と店を開ける日々が続いた。「作っても、作っても追いつかない状況だった」と和喜さんは当時の忙しさを振り返る。

子どももまだ小さく、「何を食べさせていたのかも覚えていないほど、毎日一生懸命だった」
そのような中でも続けてこられたのは、「頑張れよ」と繰り返し声をかけ、支えてくれる常連客の存在があったから。

「人情に厚い錦町の人々に支えられた。だからこそ、その思いを裏切れない。この町で良質な商品を、まだまだ現役で作り続けていきたい」と22年に70歳を迎える和喜さんは目を輝かせる。

店を育んでくれた錦町
魅力を発信できる商品づくりを

店に並ぶのは、蒸したてのふんわりした皮に、自慢のきめ細やかなこしあんが入った甘酒まんじゅうをはじめ、北海道産の最上級の黒豆を使用した黒豆塩大福など、厳選した材料を使った安心・安全な和菓子の数々。
中でも人吉・球磨や近隣の県から取り寄せた粒の大きいイチゴやブドウを使った大福が人気商品だそう。
イチオシは、求肥餅の上に抹茶のあんを載せた「錦の青福」や、抹茶を使った生地の中に黒の粒あんをサンドした「茶ムレット」。どちらも錦町の特産であるお茶が使用され、ほろ苦く茶葉の香りが際立つ逸品だ。
「自然豊かな錦町を、お菓子を通して感じてもらえるよう今後も積極的に特産品を使った商品開発に取り組んでいきたい。それを通して、これまで市房堂を育ててくれた錦町の人々へ恩返しできれば…」

店の和菓子一つ一つから、和喜さんの町への思いはもちろん、錦町の人々のエールまでもが聞こえてくるようだ。