球磨焼酎と人をつなぐ常楽酒造株式会社
取締役会長

米来 健さんTakeshi Yoneki

水上村出身。1983年に「常楽酒造株式会社」へ入社。瓶詰めから製品管理まで、現場での経験を積みながら、経理、財務、総務にも携わる。2006年、代表取締役に就任。「球磨焼酎酒造組合」副理事。「錦まち観光協会」の理事を務め、町の魅力発信にも関わっている。母、妻、息子夫婦と7人暮らし。

ウイスキーのような球磨焼酎
「秋の露」が代表銘柄

「常楽酒造」の貯蔵庫に一歩足を踏み入れると、甘く芳醇(ほうじゅん)な香りが鼻をくすぐる。棚にずらりと並ぶ樫樽の中で、ゆっくりと時を重ねるのは、ウイスキーにあらず。人吉球磨が世界に誇る球磨焼酎だ。
球磨焼酎は、世界貿易機構(WTO)により産地呼称が認められた本格焼酎ブランドの一つ。人吉球磨の米を主原料とし、地元の地下水を仕込み水に用いて作られている。
「琥珀色で、樽の甘い香りがする球磨焼酎『秋の露』がうちの代表銘柄。ぜひ味わっていただきたい」。焼酎の話になると目を輝かせる米来健さん。
「常楽酒造」は1912年に球磨郡水上村で創業した老舗蔵元。工場が手狭になり、広い敷地を求めて94年、現在の錦町へ移転した。

特産品を使ったリキュールを開発
商品作りを通して町の魅力を発信

若者のアルコール離れが言われて久しい現在。もっと蔵元の魅力を知ってほしいと米来さんが提案したのが、錦町特産の甘くてジューシーな桃やメロン、梨などを使用した本格米焼酎ベースのリキュールだ。
こだわりは、ぜいたくにも旬の時季に収穫されたフルーツを生のまま焼酎に漬け込むこと。一般的に使われる濃縮果汁と比べ、香り高く、フレッシュな味わいに仕上がるのが特徴だ。
「苦味を抑え、甘味や香りを最大限に生かすために、漬け込む期間、果実と皮の配合などを微調整しながら、試作を繰り返す日々だった」と開発当時を語る米来さん。長いもので約1年半以上の月日をかけたという。
「商品開発を通して、錦町 = フルーツのおいしい町であるということをアピールする機会につながり、自分自身にとって思い入れの深い商品の一つ」と胸を張る。

約10の蔵元と連携協力し
球磨焼酎を女性へPR

2021年現在、人吉球磨に27の蔵元が点在するが、「県外で球磨焼酎をPRする中で、焼酎 = 芋と捉えている人が多く、米で作られた球磨焼酎は、認知度が低いと痛感する」と米来さん。そこで、行われたイベントの一つが「球磨焼酎女子会の夕べ」。人吉球磨の女性らでつくる実行委員会が、球磨焼酎の魅力を女性に知ってもらうために毎年11月にあさぎり町で開いている食事会だ。10を超える蔵元が出店し毎回、約200人の女性が県内外から参加。新型コロナウイルス感染症拡大のため、ここ数年は休止中だが、開催当時、米来さんは実行委員長を務めていた。
酒蔵は、自社の看板商品をはじめ、リキュールなど、女性に人気の品を準備。またカクテル風のアレンジや、紅茶、炭酸水で割る方法など、新しい飲み方も提案したところ、大好評だったという。「思考錯誤して作ったリキュールを手に『いい香り』『色がきれい』と楽しむ参加者を目の当たりにし、喜びをかみしめた。飲み方などを直接提案でき、多くの女性にそれぞれの蔵元の魅力を知ってもらう機会になったのでは」と振り返る。

常楽酒造での経験生かし
地域の活性化にも寄与

「錦まち観光協会」理事としての一面も持つ米来さん。「錦町には、人吉海軍航空基地跡にできた資料館『ひみつ基地ミュージアム』や、剣豪・丸目蔵人佐の墓といった史跡など、魅力的な観光スポットがあるが、それらをまだまだ発信できていないと感じている。伝えていくには、点ではなく、一人一人がつながって円を描くような活動が大切」と力を込める。
相乗効果を生み出すため、錦町をはじめ、人吉球磨が一つになってそれぞれの観光名所をPRしていくことなども提案し続けているという。
蔵元と連携・協力しながら球磨焼酎を県内外へアピールしている米来さん。その視点が、今後の錦町の発展にもつながっていきそうだ。