人吉球磨の郷土料理でもてなす雪草(ゆきそう)店主

森本 洋子さんYoko Morimoto

錦町出身。夫の寿一さんの転勤に伴い、九州各地を転々とし、2007年に帰郷。12年、知人から声をかけられ、道の駅隣の空きスペースに食堂「スローライフ工房雪草」オープン。結婚式場に勤めていた経験を生かし、寿一さんのサポートを得ながら人生初の飲食店経営に挑む。

ふるさと・錦町で開店
地元や県外の人々に愛され約10年

「人吉・球磨盆地のほぼ中央、国道219号沿いの「道の駅錦」。周辺には球磨川の恵みを受けた田園地帯が広がり、澄んだ空気が道の駅一帯に広がっているよう。

その敷地内にある「スローライフ工房雪草」は、森本洋子さんが切り盛りする食堂だ。知人に頼まれて右も左も分からない中、ふるさとの錦町に食堂をオープンして約10年。開店当初はお客さまがゼロのこともしばしば。それが次第に口コミで広がっていき、「これだったらやっていける」と確信。今では地元の人々はもちろん、遠くは鹿児島や宮崎から足を伸ばす常連客もいるという。「正直、初めてのことでオープン当初はしんどい日々だった。でもこの仕事が好きだから続けてこられた。お客さまが来てくれて、おいしいと言っていただく。それだけで、今はとても幸せ」と洋子さんは穏やかな表情で語る。

人吉・球磨地方で受け継がれる
郷土の味・つぼん汁を提供

食堂の看板メニューは、人吉・球磨地方に伝わる郷土料理つぼん汁の定食(750円※21年12月現在)。つぼん汁は祝いや祭りのときに、サトイモやニンジンなどたっぷりの野菜と鶏肉で作るしょうゆ味の汁物。深い壺に盛り付けていたことが名称の由来といわれている。

店で洋子さんが提供している定食は、揚げたての天ぷらや煮物などが付き、ボリューム満点。つぼん汁は、澄んだ昆布だしが自慢だ。あっさりとした味わいの中にもだしの風味が際立ち、この優しい味を求めて訪れる人も多いそう。

「年配のじいちゃん、ばあちゃんも気楽に行ける店づくり」が店のモットー。「うちの店は気取っていないでしょ」と洋子さんが言うように、リーズナブルな価格設定も常連客に評判だ。

店の看板は夫の寿一さん
人とのつながりが最も大切

夫の寿一さんも食堂が忙しい時は、配膳や洗い物などの手伝いに来ているそう。「主人が常連客の皆さんに人気。不在にしていると『あらぁ、今日はじいちゃんのおんなはらん(いない)とねぇ』とがっかりする人も多い。そう言ってもらえるのがうれしい」と洋子さん。特に子どもたちに大人気。同じ目線に合わせて話す姿に心を奪われてか、帰るころには、すっかり仲良しになっている子も多いそう。

「人とのふれあいが一番大事。食堂の雰囲気の良し悪しが、料理のおいしさにも関わってくるはず。これからも、この錦町という地で、お客さまとのつながりを大切にしていきたい」

白髪岳は私たちの富士山
錦町の自然に魅せられて

高校卒業後、錦町を離れていた期間が長かったという洋子さん。戻ってきた当初は浦島太郎状態。今は、春に球磨川沿い一帯に咲き誇るピンク色のかわいらしいツクシイバラをはじめ、四季折々の自然を楽しめる錦町にすっかり魅了されているという。

特にお気に入りは、冬の時季に店から眺める、標高1417mの白髪岳。「うっすらと雪をかぶった様子は雪化粧という言葉がぴったりで、大好きな景色。私たち夫婦で勝手に“うちの富士山”と呼んでいるほど」

そんな錦町の自然を感じながら作る料理や2人の人柄に魅了された人々が、今日も食堂に集い、温かな語らいが生まれている。