フルーツの里の観光資源を生かす平野果樹園

平野 洗一さんSenichi Hirano

錦町出身。平野果樹園4代目。高校卒業後、上京。21歳の時に帰郷し、父が経営していた平野果樹園に就農。作付面積約220aの地で、梨や桃を妻と2人で生産している。現在、母、妻との3人暮らし。

ふみずみずしさが自慢
フルーツの里・錦町の梨や桃

すっとフルーツナイフを通すと、表面にジュワっとにじみ出る果汁。そのままぱくりといただくと、甘味、ほどよい酸味、ジューシーな果汁が口の中いっぱいに広がる。
これは、人吉球磨の錦町で果樹園を営む平野洗一さんが作った「清流球磨梨」。平野さんが手掛けるブランド梨で、ほかにも桃の「桃源郷錦」などを生産している。
「錦町の魅力は何といっても、おいしいフルーツが育つ環境に恵まれていること」と平野さん。山々に囲まれ、昼夜の寒暖差が激しく、九州山系のミネラル豊富な伏流水に恵まれていることから、甘く、ジューシーなフルーツが育つといわれている。錦町では年間を通して、桃、梨、メロン、イチゴなどが生産され毎年、町の直売所では多くの人でにぎわう。
「切った時や、食べた時に、フルーツの果汁の多さを実感してもらえるはず。みずみずしい味わいが錦町のフルーツの自慢」と笑顔を見せる。

旬の梨や桃を求め
県内外から人々が足を運ぶ

約1000本の果樹が並ぶ「平野果樹園」では、6月上旬から7月中旬は桃、7月中旬から11月中旬は梨を収穫し、JAや県内外の物産館などへ出荷。EM菌や糖蜜、米ぬか、魚粉、貝化石といった有機肥料を使用し、安心安全なフルーツが食べられると好評だ。旬の時季には、県内外から果樹園へフルーツを購入しに車を走らせるファンも多いそう。また、錦町のふるさと納税の返礼品としても採用され、ネットに品物が掲載されるとすぐに完売してしまうほど、人気を呼んでいるという。
「忙しい日々だが、仕事が楽しい。それが何よりもの喜び」と平野さんはほほ笑む。

果樹園の景観を整備し
農作業体験を受け入れ

「これからどんな農業をしていったらいいのか」。平野さんは30代の頃、そう思い悩んでいた時期があったという。「錦町はフルーツの産地。しかしわざわざ町へ足を運んでもらうには、特徴的な観光資源が不足しているように感じた」と振り返る。
そんな中、注目したのが農村地域で農業体験をし、地域の人々との交流を図る「グリーンツーリズム」という活動であった。
「県外から来た人に『錦町は何もないところがいいところ』とアドバイスを受け、ハッとした。自分たちが何気なく行っている作業や果樹園の景色も、都市部の人からすると、非日常。そんな時間や、人吉球磨の人情味ある人々との交流を楽しんでもらえたらと、梨や桃の収穫をはじめ、交配、摘果、袋掛けなど、一年を通して農業体験の受け入れを始めた」と平野さん。まずは足を運んでもらうためにも、生産物を広く知らせようと自身のブランド「清流球磨梨」「桃源郷錦」を立ち上げ、農業における「きつい・汚い・危険」といったイメージの払しょくから取り掛かっていった。

人との交流を通して伝える
錦町のフルーツの魅力

果樹園には平野さんがコツコツと作り上げてきた日本庭園があり、池の錦鯉や庭先に植えられたパンジーなどの花々が目を楽しませてくれる。
「景観作りは、簡単にできることではなかった。約30年の年月をかけてようやく完成した」と平野さん。果樹園に足を運んでもらうための工夫や平野さんの梨や桃のブランドが次第に口コミで広まり、約10年前から年間で数百人が果樹園へ訪れるようになったという。
「景観はもちろん、それ以上にみんなが喜ぶのは、梨や桃そのものを見たとき。実際に、木になっているところ、収穫して袋から果物を取り出したとき、来訪者の顔がパッと明るくなる。来てもらって良かったと思える瞬間」
人との交流や農業体験を通し、錦町のフルーツの魅力を伝えている平野さん。町へ足を運んでくれる人やフルーツを手に取ってくれる人々に喜んでもらえるよう日々研究を重ね、いつまでも意欲的な平野さんの姿勢が、錦町における農業の明るい未来を切り開いていきそうだ。