錦町の自然と調和する錦ヒルトップ通天の湯
オーナー

木村 榮作さんEisaku Kimura

兵庫県出身、熊本県育ち。1966年、人吉球磨で観光ホテルや遊技場を経営していた父から業務を引き継ぐ。83年、建物の老朽化に伴い、人吉市内のホテルを閉館。温泉源のある錦町の土地を89年に購入。2017年、錦町に温泉施設「錦ヒルトップ 通天の湯」をオープン。

木の温かみあるログハウスが目印
錦町の自然に囲まれた温泉施設

人吉インターチェンジから東へ約7km。「錦ヒルトップ 通天の湯」は杉や檜、栗などの木々に囲まれた小高い丘の上に位置する温泉施設。こぢんまりとした男女別の大浴場と露天風呂、家族風呂のほか、キャンプ場やコンテナの簡易宿泊施設を併設し、家族連れやバイク愛好家など、県内外から幅広い層に支持を得ている。
晩秋から冬場の晴れた日には、霧が辺り一面に立ち込める中、営業が始まる。木の温かみあるログハウス風の温泉施設。気さくな笑顔で出迎えてくれるのは、オーナーの木村榮作さんだ。
「ログハウスが好きという人は意外と多く、ここに来ると安心すると言ってくださる。仰々しい構えではなく、自然体でいられるような雰囲気づくりを重視した」

戦時中に人吉球磨へ疎開
湯治に助けられた幼少期

木村さんのふるさとは、兵庫県神戸市。第二次世界大戦時、焼夷(しょうい)弾で市内が焼け野原となり、親が知人を頼って疎開した先が、人吉球磨の相良村であった。「生まれて間もない私を抱えての疎開。当時、私は体中にできものができていたと聞いている」。親はそんな木村さんを連れて、人吉球磨の水上村湯山の元湯で2カ月間、湯治を行った。
「温泉との縁はその頃から始まっていたのでしょう」と穏やかにほほ笑む。
木村さんにとって、人吉球磨の温泉は自身の肌を潤してくれた特別な存在。錦町の「通天の湯」では、敷地内に温泉の守り神としてお宮を作り、毎日欠かさずお参りを続けているという。

自慢の源泉かけ流し温泉
活気ある錦町でオープン

木村さんが経営していた人吉市の観光ホテルの老朽化に伴い、次の候補地として購入したのが、錦町の源泉のある約8800坪の見晴らしのいい土地であった。「剣豪とフルーツの里として知られる錦町は、人吉球磨のちょうど中央に位置する好立地。企業誘致に熱心で若い世代が多く、活気があり、ホテル業を展開していく上で可能性を感じていた」と振り返る。2017年、念願かなって錦町にまずは温泉施設や簡易宿泊施設などを備えた「通天の湯」を家族とオープンさせた。
「通天の湯」の自慢はこんこんと湧き出る温泉の質と湯量だ。源泉かけ流しの温泉はpH値8.47の単純温泉低調性弱アルカリ性で、美肌効果が期待できる美人の湯。39.2度の湯が1分間に約250リットル沸き上がっているという。ぬるっとした肌触りが特徴で、肌を柔らかく整えてくれるようだ。

お客さんの笑顔が一番のご褒美
心のバトンを次の後継者へ

「私たちの温泉はロケーションが抜群。良い気が流れているように感じる」と木村さんが話す通り、錦町を一望できるのが魅力だ。遠くは市房山、白髪岳を望み、晴れた夜は満点の星空が広がる。
「大自然の中にいるかのような気分で、癒やされてほしい」と、露天風呂や石垣、縁石など、至る所に球磨川の岩を運び入れたのも木村さんのこだわり。露天風呂に植えた紅葉や山茶花、つつじ、桜なども四季折々の表情を見せ、「花が咲いたね」「紅葉はもうすぐかな」などと、常連客との会話も弾む。
「疲れがとれた、不調だったところが良くなったと言いながら、お客さんが帰られる。その笑顔が一番のやりがい」
今後の目標は、木村さんのバトンをつないでいくこと。「幸いにも、身内に自分の後継者が育ちつつある。今後は宿泊施設を増設するといった夢を温めながら、盛り上げていきたい」。夢を諦めずに前進し続ける木村さん。前向きな姿勢が温泉施設に良い気をもたらしているようだった。